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第99回例会

2017年12月12日(火)

劇団民藝公演 
 

集金旅行


原作=井伏鱒二 脚本=吉永仁郎 
演出=高橋清祐 
主な出演=樫山文枝、西川 明

原作は『山椒魚』『黒い雨』などで知られる井伏鱒二が36歳の頃に執筆した同名の中編小説で、行く先々で二人が出会う一風変わった人びととのやりとりや、同行二人の微笑ましい交情が、井伏文学独特のユーモアにくるまれて、どこか牧歌的風景を感じさせます。初めての井伏作品舞台化にあたり、脚本の吉永仁郎さんは「芝居を観ながら、良
質の小説を読んでいるような気分に浸ってもらえたら。そんな静かな喜劇にしたい」と語っています。

東京荻窪のアパートの主人がぽっくり亡くなった。
家族も親戚もなく、遺されたのはかなりの額の借金。
担保に入ってしまったこの安アパートが気に入ってこの先も住み続けたい居住者たちは一計を案じる。
部屋代を踏み倒して夜逃げしていった不心得者たちの郷里を巡り、故人に代わって滞納金を取り立て、借金の返済に当てようというのだ。
不運な役を受ける羽目になった十号室の自称"売れない小説家"のヤブセマスオ氏はしぶしぶ中国地方・九州へ向かう。それを知った七号室のコマツランコさんは、同行して各地にいる昔の不実な恋人たちから慰謝料を取り立てたいと……
こうして目的の違う集金人二人の奇妙な道中が始まる。




例会の見どころ

民藝の俳優の層の厚さを実感できる喜劇で、予備知識なしでも十分楽しめる演目です。
しかし、予備知識があればより一層楽しめること間違いありません。
「集金旅行」は、昭和初期の荻窪の富士荘というアパートの住民による亡くなった大家さんが残した借金の返済の為に(アパート立ち退きの危機が迫り!)、やむを得ず大家さんに代わり住民代表として作家ヤブセマスオ氏が未回収の家賃を取立てる旅にでることになり、その旅に便乗するかたちで住民の中年女性コマツランコが自身の慰謝料を取立てに行くという、思わず二人の「集金旅行」になった西日本をめぐる道中が描かれています。
 冒頭では荻窪が三流の作家が住むところとして描かれており、実際原作者の井伏鱒二は荻窪に住み、また井伏を慕って多くの作家も荻窪に住んでおり、その中の一人には太宰治もいて作品の中でも「太宰」として登場するだけでなく「太宰治」の実話を劇に取入れるところも、劇にリアルさと面白味を持たせています。
「太宰」は冒頭と最後に登場しますので、太宰とヤブセマスオ氏の会話も楽しみにしてください。
 作品では、回収(つまり家賃滞納者)先として、西日本各地の地名が挙げられます。その中に「滋賀県長浜」の地名もあります。
一瞬ですのでお聞き逃しなく!
時代背景として、当時の東京のアパートは、実家が裕福でないと住めないと劇中で描写されます。
「集金旅行」はそのためか、実際滞納家賃の取り立てが次々に成功します。
また一方コマツランコも、旅を伴にするほど謎めく訳ありげな大人の女の様子が垣間見えてきますが、これも順調に慰謝料を取立て、時には本人も驚く程の高額なこともあり滞納家賃分として寄付するまでになります。
 西日本の各地を回り、旅の最後はヤブセマセオが一人で東京の富士荘アパートに戻ります。
一緒に旅したコマツランコとは、アパートの住民同士として出発しますが、旅の道中でヤブセマスオやコマツランコとの間柄の変化も味わい深い見どころです。
そんな二人なのに何故ヤブセマスオが一人で東京に戻ったのかは、劇を観てのお楽しみに〜♪
 そして最後に舞台で、なんとコマツランコが再び登場。さてどんな展開になるか、最後まで目が離せません。
年の瀬に心地よい笑いとともに心がほっこりとするひと時を過ごせること間違いなしです。「集金旅行」ご期待下さい。
尚、参考までに昭和初期の貨幣価値は1円が現在の1000〜2000円位ですのでご承知おき願います。
(ホップ・ステップ・ジャンプ 伊藤よう子)






「集金旅行」の魅力を知ろう会

杉山良平役の みやざこ夏穂さんをお迎えして

10月21日(土)ひこね市文化プラザにて劇団民藝の男優、みやざこ夏穂さんをお招きして「魅力を知ろう会」を開催。
参加サークルは18C24名(内運サ11C14名)。
現在数々の芝居に出演、活躍しているみやざこさん、今回は杉山商会の二代目、金融業者役で出演します。
お話しは劇団民藝の誕生、芝居の概要、時代背景、出演者、原作者「井伏鱒二」そして脚本家、演出家に関してまでの多岐に亘り、とても参考になりました。
幕開けと幕切れの舞台は「荻窪」にあるアパート。
東京「荻窪」については滋賀県人にも分かるようにとホワイトボードに地図を書いて丁寧に説明してくれ、気配りに感謝です。
今回の芝居については、民藝としては珍しく大人の喜劇で、ゲラゲラではなくほっこり笑える芝居。
世界が戦争へと向かっていた昭和初期のお話しで有り、その社会矛盾を浮き彫りにする芝居が民藝には多いが、この芝居は社会性には余り触れておらず、楽しく観て頂けるものとはみやざこさんの弁。
出演する俳優陣も凄い。芸歴何十年の役者がズラリと顔をそろえており、チョイ役ではあるのに、正に民藝ならではの布陣と言える。
養成所時代同期だった「アラエイ(80歳)?」の俳優さんたちは今回の旅公演を「集金旅行」ではなく「修学旅行」気分で楽しんでおられるという。
元気で味のある演技に注目したい。そして劇中登場する加茂村(井伏鱒二の出身地)の鶴屋幽蔵については作者の10年前の分身として登場させているが、これは売れない作家の投影だという。ぜひ頭の片隅に!
主役の樫山文枝さんについてはあの「おはなはん」のかわいらしい印象が強いが、今回は快活な婦人「コマツランコ」を演じ、みやざこさん曰く「肉食系婦人」。
そして相手役西川明さん演じる「ヤブセマスオ」は「草食系」。
この二人のやり取り「ボケ」と「ツッコミ」が繰り出す珍道中、そして各地方の「家賃踏み倒し男」と「不実な男」達とのさりげない会話は観る人の心をくすぐる笑いをもたらしてくれる筈という。
最後に役者の芝居に向かう姿勢についてのお話し。台本を読む、次に読み合わせ、立ち稽古、本番の順で役者は成長するもので、客席の反応で芝居はどんどん磨かれ、高質化していくものと役者さんならではのお話。
熱意のこもったお話しをありがとうございました。
(チロリアンベルS 椎名)



▼みやざこ夏穂さん!楽しく聞かせて頂きました。“アラエイ”の本番を安心して観劇出来ることを期待しています。深みのある芝居が楽しめそうですね。
▼今回、初めて運営サークル会の「魅力を知ろう会」に参加させて頂きました。直接役者さんの話を聞く事が出来、感動でした。
今まで舞台の上で演ずる「人」は遠くの人と言う感じでしたが、身近に接してお話しが聞けた事はとても楽しい経験となりました。
▼今回「魅力を知ろう会」に来てほしいなと思っていた人を誘えなかった事が非常に残念だった。
いつも事前に公演の魅力をお聞きして公演の期待が高まる。年末に大人の笑いの舞台を観て新年を迎えたいと思った。今日は素敵なお話しをありがとうございました。



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