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第95回例会

2017年4月13日(木)

俳優座劇場プロデュース公演 

 もし、終電に乗り遅れたら…


作:レクサンドル ヴァムピーロフ
演出:菊池 准
出演:浅野雅博(文学座)、小田伸泰(俳優座)、外山誠二(文学座)、逢笠恵祐、
岩崎正寛、若井なおみ、米倉紀之子、林亜沙子、槙乃萌美、里村孝雄

ロシア現代演劇を代表する劇作家・アレクサンドル・ヴァムピーロフの作品。
凍えそうな春の夜、終電に乗り遅れた二人の若者が宿を求めて見知らぬサラファーノフ家を訪ねる。
二人の来訪と出まかせはそれぞれの思いと現実が交錯し、思いもよらない方向へと…





(あらすじ)
口からでまかせの嘘が意外な結末へ ――
「この男は君の兄貴なんだ!」
凍えそうな夜、終電に乗り遅れたブスイギンとシーリワが飛び入ったのは子供たちが家出寸前の一家。
その場しのぎの二人の言葉を真に受けて、事態はあらぬ方向へと走り出す!!
軽快なコメディでありながら、人生の哀しみや家族の機微をこまやかに描きます。




突然、夜中に「僕はあなたの息子です」という青年が現れたら、あなたならどうしますか?


日本では、現実味のない、ありえない話のように思えますが、ロシアでは、さもありなんといった、まことにリアリティーのあるお話なのです。

見も知らずの赤の他人が、「私はあなたの息子です。」あるいは「娘です。」という話が、ロシアでは非常にリ アリティーがあります。
まず、スターリン時代には、内部人民委員部=政治警察が突然家族全員を逮捕し、銃殺もしくはシベロア流刑になる人たちが後を絶ちませんでした。
しかも、逮捕に来る時間帯は深夜が多く、そして一家離散してしまった家族は大勢いました。
したがって、この舞台では、突然夜中に青年が現れて、その2人を招き入れること自体、そうした恐怖時代が過ぎ去ったことを象徴しているのではないでしょうか。
また、流刑が終わって突然、身内の者が現れることだって十分に考えられました。
ソ連は、第二次世界大戦で、ナチスドイツに侵略され、2000万人以上の犠牲者を出しています。
家族全員が虐殺されたり、バラバラに一家離散してしまう例は枚挙にいとまがないほどでした。
だから、戦後、突然身内のある者が目の前に現れるのは不思議なことではありませんでした。
もう一つは、18歳から男性は徴兵が課せられます。
地方の軍隊に配属されて、軍隊生活時代に知り合った女性との間に子どもが出来る例は多々あって、その子が時間を隔てて突然、男性の前に現れることはよくあるらしいです。

   
作者のアレクサンドル・ヴァムピーロフはロシアの劇作家。面白おかしく描かれた人生の悲哀とおかしみに、人間のあたたかみがにじみ出るヴァムピーロフの作品は
発表当時から人気が高く、チェーホフの再来とも評されるほど。今日でも多くの作品が上演されています。 

作者アレクサンドル ヴァムピーロフについて
1937年8月19日 ロシアのイルクーツク州クトゥリークで、学校の教師の家庭に生まれる。
1955年、イルクーツク大学に入学。- 学生時代から文学的な小品やルポを書き、地方紙や大学新聞に発表していた。
1958年、A・サーニンいうペンネームで最初の短編小説を発表。
1960年、大学卒業 新聞社編集局に勤める
1961年、学生時代から書き溜めた文学的Jレポや小品を集めて『いろんな事情で』を発行する。
1962年、モスクワで行われた「一幕物を書く劇作家のためのゼミナール」に新聞社から派遣されて参加する。
その後、1964年に新聞社を辞め劇作家の道に入る。
1963年『天使との二十分』(一幕)
1964年「窓が野原に向いた家』 (ー幕) モスクワのゴ一リキー記念文学大学の研修生となる
1964年『六月の別れ』(二幕の喜劇) 劇作一本で生活していきたいと思う。
1965年『長男』(『もし、終電に乗り遅れたら…』) (ニ幕の喜劇)
1968年『鴨猟』 (三幕の戯曲)
1970年『メトランパーシ物語』 (一幕)
1971 年『去年の夏、チュリームスクで』 (二幕のドラマ)
しかし、ヴァムピーロフの作品は、当時のソ遠の劇場ではなかなか上演されなかった。

【その理由】
1 ヴァムピーロフの作品の新しさをソ速の演劇界がなかなか認めようとしなかった。
2 ソヴィエト官僚による検聞によって フルシチョフによるスターリン批判と自由化(これを当時の文学・文化の世界では『雪解け』と称した)の波を食い止めようとし、執拗に新しい純粋なものの出現を抑えようとしていた。
 
* 1974年8月17日、バイカル湖上で、翌々日の自身の誕生祝いの宴のために釣りに出かけたものの、ボートが転覆する水難事故に遭って、37 歳という若さで死亡。
 ソヴェトの演劇界は、不慮の事故で才能のある若き劇作家を失ってしまう。


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