第89回例会 2016年2月16日(火)前進座公演 通し狂言 切られお富 |
今例会のみどころ
通し狂言 「切られお富」 処女翫浮名横櫛
前進座歌舞伎の傑作!待望の巡演!
瀬川如皐(じょこう)の代表作『切られ与三郎-与話情浮名横櫛』(よわなさけうきなのよこぐし)の書き替え狂言。
● 「切られお富」の話とはどんな話なのでしょう
簡単に言うと、「切られ与三郎」をお富に置きかえたもの。
『切られお富-処女翫浮名横櫛-(むすめごのみうきなのよこぐし)』は、お富を魅力たっぷりに描いていますが、その原作をしのぎ、「切られお富」の方は悪婆物(あくばもの=女だてらに男勝りの強請(ゆすり)や人殺しをする女(毒婦)。濃厚な色気の年増の女というイメージですが、婚期を逃したというほどでもない娘で、小悪魔的なぴちぴちとした魅力を持った姉御肌の女性といったところです。)の典型に数えられています。
そもそもは華麗純情な女性だったお富が、疵(きず)だらけになりながらも、夫をけしかけ強請り騙り(ゆすりかたり)、はてはその夫を包丁で…。 しかしながらその悪事は、愛する与三郎のため、与三郎に尽くし通す…という一途な恋心が引き起こすドラマの数々。濡れ場・責め場・強請り(ゆすり)場・立ち回り…と見どころ一杯。
今回は、姿形も美しい河原崎國太郎がお富役で、女形(おやま)として しとやかで艶やかで見る者をも魅了してしまう。先代の河原崎國太郎が毎日芸術祭賞を受けたのは1981年。2010年に国立劇場で26年ぶりに当代で上演、いよいよ全国で公演される運びとなった。待ち望まれた公演が例会となる。前進座歌舞伎の傑作!さもありなんである。
ついついお富の艶やかさに引き込まれて… では…
ところで「通し狂言」って何?
●「通し狂言」 とは……
歌舞伎および人形浄瑠璃(じょうるり)の上演形式の一つ。
歌舞伎などで、一つの狂言を序幕から大切(おおぎり)まで全幕、またはそれに近い場割で、通して上演すること、またはその狂言を指します。なので、滑稽劇や笑いを中心とした、能と能の間を繋ぐ内容の軽いものとは違い、庶民の中で起こってくるストーリーが中心です。また、役者は本格的な一流の歌舞伎役者が演じており、ストーリー展開だけでなく、演者・役者がどのように演じるか。それを観るのも、さらにわくわくさせられる要因の一つです。
(プリティーガールズ 小谷)
「切られお富」の魅力を知ろう会 河原崎國太郎さんをお迎えして 1月11日(祝)18:30から彦根市民会館で、第89回例会、前進座「切られお富」の主役お富役の河原崎國太郎さんをお迎えし、「切られお富」の魅力を知ろう会を開催しました。 会場に着物姿で國太郎さんが粋に現れた瞬間から50名余りの会員は、國太郎さんの魅力と興味深いお話に皆釘付けになりました! お話は、前進座の歴史から始まって、自分が前進座で第三世代であり、河原崎國太郎を襲名したことは世襲ではなくて、芸を受け継いで次へ伝承する責任を負っていること。 屋号のこと、時代物と世話物の違い、「切られお富」ができた背景、外題「処女翫浮名横櫛」とは?この舞台の前後の物語のあらすじまで、わかりやすくお話しいただき、チラシ等を見るだけでは、よく分らなかった歌舞伎の世界に観る前からどっぷりひきこまれてしまいました。 また、歌舞伎を観て、参加する楽しみ方(声のかけ方、タイミング等)から、作者による悪婆のセリフの聴き比べ、女形の手の所作だけで、娘から老婆まで演じ分れることの実演など、お芝居を観るだけでなく事前に主役の俳優さんからお話を聞けるなんて、本当に鑑賞会ならではの体験でした。 演劇を観る前に「魅力を知ろう会」に参加して、事前に勉強するだけで、こんな歌舞伎が楽しみになるなんて!サークルの仲間にも「魅力を知ろう会」には絶対参加したほうがいいよと声をかけたくなるような本当に素敵な会でした。 (エルフ 澤英之) |
歌舞伎用語
◆悪婆(あくば)
いわゆる悪女の役。必ずしも婆さんとは限りません。むしろ、仇っぽい粋な年増が多いようです。
◆荒事(あらごと)
初代市川団十郎が作り上げた演技様式。めっぽう強い武士や怪力乱神が登場し、魔術妖術入り乱れた大立ち回りを繰り広げる。
◆世話物(せわもの)
歌舞伎の演目【えんもく】は、内容によって世話物と時代物【じだいもの】の2つに大きく分けることができます。
世話物は江戸時代の庶民【しょみん】からみて、現在の生活を題材にして作られたものです。登場人物は、当時の町人が中心です。物語の多くは、江戸時代に世間で起きた事件を題材にしています。義理人情を中心に描【えが】いたものが数多く上演されました。庶民にとっては作品の世界が自分の生活に近いため、登場人物に同情したり親しみを感じたりできたのです。現在のテレビドラマと同じような感覚です。
◆柝(き)
「とざいと~ざい、チョンチョンチョン…」の「チョンチョン」を担当している、拍子木のこと。
開幕・閉幕の時をはじめとして、いろんなタイミングで使用されます。
◆くどき
浄瑠璃や歌舞伎のクライマックスで俳優と浄瑠璃とで演じる個所。「口説き」ともいう。
女性が自分の心情を切々と訴【うった】える場面を「クドキ」とよびます。
◆ケレン
漢字で書くと「外連」。今風の言葉で言えば「スペクタクル」ということ。
宙乗り・早替わり・大がかりな舞台装置などで、ひたすら観客の度肝を抜きます。
◆後見
舞台上で演じている役者の後ろで、目立たないように小道具の受け渡しや衣装の引き抜きを手伝う人たち。黒子が有名ですが、裃姿の後見も時々います。
◆定式幕(じょうしきまく)
歌舞伎を上演する劇場に常設されている引幕のことで、「定式(じょうしき)」とは「決まっている形式」という意味です。黒、萌葱(もえぎ)[濃い緑色]、柿色[茶]の3色の布を縫い合わせて作られていて、歌舞伎を象徴するデザインとなっています。
◆だんまり
漢字で書くと「暗闘」。大勢の登場人物が、暗闇の中で無言のまま手探りで歩き回る様子を様式的に表すこと。主な役者の顔見せの意味があるそうです。
◆ツケ
析の演出手法のひとつ。舞台上手の端っこで、「ツケ板」という木の板を床に置き、その上で二本の析を叩きつけるように打ち鳴らすもの。開幕前の析と異なり、爆発音のようなかなり大きな音が出るので、ボーッとしている時にこれをやられるとビクッとしたりします。
◆濡れ場(ぬれば)
現代でも使われている言葉ですが、歌舞伎の「濡れ場」は現代の濡れ場ほどセクシャルな意味はなく、男女間の細やかな情愛を演じるシーンを一般的にこう呼びます。濡れ場を演じる役者が「濡れ事師」。
◆見得(みえ)
「見得を切る」といいます。映像表現におけるクローズアップと同じ意味合いがあり、身体の形、表情の様式美を最大限に引き出す演出手法です。見得を切るシーンではまず析の音がチョンと入って観客の注意を引きつけ、それを受けて役者がきっと客席をにらみつける、というのがパターン。闘いの場面では連続的に見得が入ったりします。