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第88回例会

2015年12月9日(水)

劇団東京ヴォードヴィルショー公演 

  パパのデモクラシー


スタッフ
【作】永井愛【演出】鈴木裕美
【出演】佐藤B作・佐渡稔・石井愃一・市川勇
  たかはし等・あめくみちこ・山本ふじこ
  まいど豊・市瀬理都子・京極圭・玉垣光彦・石川琴絵
【客演】井之上隆志・かんのひとみ・野々村のん・北澤小枝子


(あらすじ)
舞台は1946年、敗戦直後の東京。神主の木内忠宣は軍国主義の手先だったと非難され、デモクラシーの新時代においては、はなはだ分が悪い。長男はシベリヤ抑留中で、この食糧難に、長男の妻のふゆ、次男の宣清と居候の本橋(元特高警察官)を抱えている。そこへ、かつては国防婦人会のメンバーだった緑川が民主活動家に転身し、戦災で住まいを失った人たちを預かれと、七人も押しつけてくる。その中には東宝映画で争議中の助監督・横倉たちもいて、何が民主的かをめぐり、たびたび忠宣ともめる。ふゆは、そんな横倉にすっかり感化され、待遇改善を求めてストライキを始める始末。そんな中、養子の千代吉が復員してきて…







(今例会のみどころ)


この演劇は1945年8月15日の終戦を境にして、軍国主義から民主主義へと価値観の変化が普通の人々の生活に巻き起こした混乱をえがいたコメディである。
舞台は神主(石井愃一)一家の住居、居候や戦災で家を失った人々が住んでいる。
その中には東宝争議中の映画の助監督などもいて、基本的人権、主権在民、戦争放棄、と憲法の学習のようなセリフも出てくる。
下女のような扱いをうけている神主の長男の妻(野々村のん)は感化されて、待遇改善を求めてストライキを始める。
そして神主の養子千代吉(佐藤B作)に民主主義を説いている。
陸軍大佐の未亡人で元国防婦人会の緑川(あめくみちこ)は民主的活動家に転身し、家は焼けているので泣く泣く鳥小屋に住んでいる。
この緑川、戦時中は指輪を供出しなかったにもかかわらず、神主の長男の妻の指輪は取り上げて供出していた。
舞台中盤あたりで女どうしのバトルが登場したりする。
しかしながら舞台が東京ということなのか政治と日常がこんなに密接に描かれてはいるのだがそれがおしつけがましくない。
東宝争議が有名でも田舎に住んでいたら他人事である。
しかし神主一家が渦中の人たちと住んでいるからクローズアップされているわけである。
映画俳優の情報がリアルタイムに知ることが出来るということ、そして焼け出されて住むところがなくて、たまたま神主の家に居合わせたという御縁だけだが、連帯感が湧いて東宝争議団の応援をしたりする間借り人達、そのうちに今度は1947年2月1日ゼネストが神主一家を巻き込んでいくことになる。
神主と仲の良い居候達は闇市で商売を始めているので本当はゼネストをしてほしくないけど(商売に影響がでるため)ポーズではデモに行っていたりする。
舞台後半最終あたりでゼネスト中止のラジオ放送を聞く場面では、1945年8月15日の天皇の玉音放送とだぶらせているような感覚を持ってしまった。
私達は20世紀半ばの戦後から21世紀になり70年平和な日本で、民主主義の世の中を当たり前のように生きている。
普段、気にもかけないでいる。
普通の人々が社会の価値観の変化でふりまわされて生きることの滑稽さ、おかしくて切ない、こんな事態にならないようにちょっぴり社会と個人生活の関係性も頭の隅におこうと思う舞台である。
(あやめ1 藤井晶之)

「パパのデモクラシー」用語豆辞典

▼デモクラシー:民主主義
戦後、GHQによって課された最大のテーマが「デモクラシー」。それまでの価値観・思想が大きく転換され、人々を混乱させた。

▼GHQ:連合国軍最高司令官総司令部
太平洋戦争終結に伴うポツダム宣言を執行するために日本で占領政策を実施した連合国軍の機関。その構成員の多くは米国軍人と米国民間人で、他に英・豪軍人も含む。

▼東亜の開放:欧米の植民地支配から東・東南アジアを開放するという、先の大戦で日本が掲げた目標。

▼財閥:富豪の一族。
戦前の財閥は1947年GHQの指令により解体された。その後四大財閥などは企業グループとして再結集している。

▼水団(すいとん):小麦粉で作った団子を汁で煮込む郷土料理。戦時中の代用食。

▼国防婦人会:1932年から1942年まで存在した婦人団体。出征兵士の送迎など戦争協力団体として活動。

▼新憲法の三原則:1947年5月3日に施工された日本国憲法。[国民主権」「基本的人権 の尊重」「平和主義」を三原則とする。

▼東宝争議:大手映画会社、東宝で発生した労働争議。従業員の九割5600名の組合員を持つ巨大勢力となった組合が、賃上げや労働時間の制約を求め、会社と対決した。

▼十人の旗の会:第二次東宝争議のあと、ストにも反対、会社にもつかないと表明した、当時の東宝の大河内伝次郎、長谷川一夫、高峰秀子、山田五十鈴、原節子ら十大スター。後に「新東宝」を設立。この穴を埋めるため、東宝は「ニューフェース」として、三船敏郎、久我美子、岸旗江などを起用した。

▼インターナショナル:労働組合の団結意識を高める際歌われる。1917年から1944年の間ソビエト連邦の国歌でもあった。

▼2.1ゼネスト:1947年2月1日に計画されたゼネラルストライキのこと。全国全産業でのゼネストが計画されていたが、GHQのマッカーサー司令官の指令により中止となった。日本の共産化を懸念したためだったと言われる。当時の伊井労組委員長は涙ながらにラジオで中止の決定を宣言した。

▼かつぎ屋:農村から闇で買い出した食料を都市に運ぶ職業。

▼復員:兵隊が招集を解かれ、帰ってくること。

▼国家新道:国家権力の保護を得て、国家的性格を持った神社神道。天皇制支配の思想的支柱とされた。

▼特高:特別高等警察。言論、思想の取り締まりをした。敗戦後、廃止。

▼禰宜様:神主様

▼隠匿物資:陸軍や海軍が降伏のどさくさに隠しこんだ食料や資材。

▼闇市:闇取引の品物を売る店が集まっている所。

▼軍需工場:軍隊、兵備、戦争に必要な物資を作る工場。

▼検閲:公権力が、表現行為ないし表現物を検査し、不適当と判断する場合には発表を禁止すること。

▼パンパン:戦後の日本で、進駐軍兵士を相手にした街娼(がいしょう)。パンパンガール。

▼カストリ焼酎:終戦直後の日本で出回った、粗悪な焼酎及び、闇市に氾濫した粗悪な密造酒。


佐藤B作さんをお迎えして  「パパのデモクラシー」の魅力を知ろう会


 11月2日(月)13:30〜15:00、彦根市民会館で、劇団東京ヴォードヴィルショー座長の佐藤B作さんをお迎えし、『パパのデモクラシー』の“魅力を知ろう会”を開催しました。参加者は38C54名(運サ13C19名)でした。
はじめに、『パパのデモクラシー』について、最初はバラバラの16人もの登場人物なのに、お芝居が進むにつれ、その一人一人の人生が全て描かれていく、面白いだけでなく、あの大変な時代の社会問題を描きながら笑わせ泣かせる、永井愛さんのすばらしい作品と紹介されました。
 その後、お話は、演劇と初めて出会いその後の人生の基礎を作ったかもしれないB作さんの小学生時代へと移り、とても優秀だった中学校、高校時代を経て、世界を股にかけ仕事をすることを夢見て進学された早稲田大学時代へ。そして、その後の役者人生について熱く語ってくださいました。
 大学中退を選択されたB作さんに、残った授業料をきちんと払って正式に中退せよと大金を渡された優しく厳しいお母さん、演劇の基礎を教えた小学校の演劇部顧問の佐藤先生、自由劇場で「お前がいい」とほめた吉田日出子さん、撮影の半年前からリハーサルする厳しい萩本欽一さん、台詞のしっかりした理解を厳しく求める演出の鈴木裕美さん。豊かな出会いが人を豊かにするということを再認識した1時間半でした。      (あづっち3 藤域志津子)



参加者からの感想より【抜粋】

●B作さんの圧倒的なパワーに引き込まれて楽しかった。『パパのデモクラシー』の“魅力を知ろう会”というよりB作さんの“魅力を知ろう会”のような展開だった。当日B作さんが千代吉をどう演じられるかが楽しみです。
●「褒められることは生きる力になる」「若いときにしかできないことと年を重ねたからできることがある、お互いに相手を必要として生きていく」いい言葉です。

●主権在民・基本的人権の尊重・戦争放棄をからめた、今の時代ぴったりの作品で楽しみです。作品の説明やご自身の生い立ち、演劇に入ったきっかけ、楽しく面白く聞かせていただきました。
●初めて事前学習会に参加しました。戦後間もない時代背景は想像もつきませんが、人と人の交わりはいつの時代も変わらないと思うので12月公演楽しみです。サークル以外の人にも声をかけて新しい会員のお誘いに努力したいと思います。



東京ヴォードヴィルショー
「パパのデモクラシー」運営サークル活動報告

9月29日のプレミーティング以来12月11日のまとめの会まで70日あまりの運営サークル活動でした。
 前例会クリアはもとより、会員数600名突破を目指し、各サークルで新入会員お誘いの目標を立て第1回運営サークル会議に持ち寄りました。同時に事務所の壁にお誘い状況を示すリュックサックの図が貼られました。成果はなかなか出ず、運サ会議が重苦しい雰囲気になることもありましたが、11月28日に前例会クリア、例会1週間前の12月3日に目標の600名を突破しました。退会の少なさに助けられた感はあるものの、リュックサックに新入会員を示すサツマイモが一つ一つ増えていくのを運営サークル団結の結果と力強く感じました。
11月2日の「魅力を知ろう会」(事前学習会)は54名の参加で、佐藤B作さんの熱いお話を伺うことができました。また、DVDや台本で内容を理解するにつれ今回の作品が時機を得たものであることを感じ、お誘いにも熱がこもりました。
例会当日は、早朝から搬入作業に16名が参加。今回は、開場直前にゆとりをもつため、引き続きチラシの折り込みも済ませました。また、「お通し」は豊富なメニューで、劇団の方に喜んでいただき、対面式も寸劇で盛り上げ、演劇鑑賞会ならではの手作りのおもてなしができました。

(あづっち3 藤域)


新会員を迎えたサークル

【運営サークル】(8サークル・15名)
ハナミズキ、あやめ1、あづっち3、おたふく、すみれ2班、 橋本典子サークル、ミキティ、ゆうすげの会

【運営サークル以外】(4サークル・4名)
エルフ、つばさ、ふきのとう、ライラック

【合計】12サークル・19名


東京ヴォードヴィルショー 「パパのデモクラシィー」
あめくみちこさんにインタビュー



Q 今、この時期に戦後の民主主義を扱った「パパのデモククラシー」に取り組まれる思いは?

この作品は、劇団の40周年記念公演として永井愛さんの作品をぜひにと、一昨年初演、そして今回再演でこちらの方を回わっています。この作品を永井愛さんが書かれたのは20年前なのですが、古びるどころか、ますます私たちの身に迫るというか、この夏この旅に出る頃瀬戸際に安保法制が可決されてしまって、東京でも各劇団が地元の駅で(安保法制)反対のサイレントスタンディング活動で、プラカードを持って無言で立っておられ、私たちも東京にいたら参加したかったのですが、幸いにもこの作品で回らせていただいているのは、その活動の一環にもなるのではと考えています。
この作品の時代背景は戦争直後で、軍国主義から民主主義の時代に変わり、それをどう自分の生活に取り込んでいくのかとみんなが四苦八苦しているのですが、人間のやることですからその中に間違いもあって失敗しながらもみんなで民主主義を学んでいくというお芝居です。あれから70年も経っているのに、今もその頃と変わっていないのではないかと思います。今ほど「民主主義とはなんぞや」と問われている時代も珍しいですね。永井さんの作品は笑いに包まれているので、役者も奥にある根の深い問題に、今回再演で初めて気づくというところもあって、再演で観ていただけるのは嬉しいなあという思いがあります。


Q 役者を目指されたきっかけは?

 高校に入って芝居好きのお友達に出会ったことですね。中学の頃は通訳になりたいと思っていました。通訳になれたらかっこいいなあなんて思って、中学の頃は英会話部に入っていたのですが、高校に入ってお友達の影響で芝居を見るようになりました。はじめは柴田恭兵さんの東京キッドブラザーズにあこがれて、ミュージカルで歌あり踊りありでお芝居っていいなあと思うようになりました。本当にショックを受けたのはつかこうへいさんの舞台で、当時紀伊國屋ホ−ルで3ヶ月続けて上演されていた「熱海殺人事件」ですね。本当に面白くて泣くわ、笑うわ、笑うわ、泣くわで。当時チケットは1800円で、2,000円あればおつりがきてお芝居が観られました。「熱海殺人事件」は3,4回観ましたが、本当にすばらしくて、頭を殴られた感じでこんな面白いお芝居があるのかと、これはもう入るしかないと思い、すぐにつかさんの事務所に電話をし、お手伝いでもアルバイトでもやらせて欲しいと言いましたが、来月から休みますと言われて。ちょうどつかさんが10年ほど休まれたその時期でがっかりしたのですが、休まれるなら仕方ないと思いました。又、お芝居で、風間杜夫さん、加藤健一さん、柄本明さん、女優さんでは根岸季枝さん、岡本麗さんなんかを観ましたね。老舗では青年座、文学座も。私の好きなのは小劇団なのですが、うちの劇団(東京ヴオードヴィルショー)のお笑いに徹した芝居を観て、またショックを受けました。こんなばかばかしいお芝居があるのかと、笑って、笑ってすかっとして、テレビでは放送できないような内容ってありますよね。下ネタの笑いもあったし、最先端というか、あの当時うちの劇団はすごく尖っていて、すごいエネルギーでした。帰りに劇団員募集のビラを配っていて受けてみるかと思いました。その時は高校生や大学生が結構たくさん受けて10倍以上の倍率はあったのですが受かりました。観るのも踊るのも好きで、ジャズダンスは習っていましたが、お芝居の経験はなく上手も下手もわからない状態でした。怖かったんですよ、佐藤B作さん。まあ、おじさまたち皆さん怖くて、ドラムのスティックみたいなのを持ってお稽古して、できないならそれでバシバシたたくんです。男の子なんか蹴られたりして。今日できないお芝居が一晩寝たからって明日すぐにできるはずはないですよね。どうやったらいいんだろうと考えましたが、わかるはずもなく、稽古場に行くのが辛くて、明日足の骨が折れたらいいのにとか、稽古場が火事にならないだろうかなんて考えましたね。あくる日も又、同じところで怒られるんですね。同期も20人位いましたが、結局山本ふじこちゃんと二人だけになりました。稽古がきつくて帰りに泣きながら電車の中で励まし合って。でも、やめようとは思いませんでしたね。高卒で入いりましたので、もう30年。あっという間ですね。できない自分が悔しくてずっと続いたのでしょうか。ちょっとでも良くなりたくて頑張ろうと、かわいい時代でしたね。でも当時怒っていただいて良かったです。おじさま達、最近怒らなくなりました。怒ると疲れるとかいうんですよ。「怒られてなんぼ」というのがありますよね。

Q ご夫婦一緒にお芝居の仕事をしておられることのプラス面とマイナス面は?

えーっそれ聞きますか?同業者ですから、家でもお稽古でも24時間一緒で、疲れるとつまらないことでけんかになります。意見が一致しているときはいいのだけれど、意見が分かれた時は、ものすごい討論になるので、芝居の話は稽古場でみんなの前で等しく一緒に言い合って家に持ち帰らないようにしようというルールを作ったんです。台詞をおぼえる時期も一緒なので、二人とも声を出して覚えるのですごくうるさい。うちはリビングが一つしかないので先に取った方が勝ち。後の人は寝室で。二人でブツブツブツブツ台詞を言っています。お互い役者だから仕方ないですけれどね。

Q 大切にしている言葉は?

 言葉ではないのですが、自分の言葉で考えて話せる人間になりたいと思っています。もちろんいいお芝居や映画や小説から教えてもらってはいるのですけれど、最終的には自分の言葉で話せる人間になりたい。ちょっと難しく漠然としているのですが、今の政治のこととか、私も今更ながらお恥ずかしいのですが、日本の歴史も近代史も勉強不足だったなあって。広島に行けば資料館に行ったりしますが、自分からすすんで読んでみようとしなかったとを反省し最近勉強を始めました。今の世界のことや難民の問題なんかも、日本にいると気づかないことが多いのですが、そういうことは地続きなのだなあと最近気づいたんですね。どんなことも繋がっていないものは一つもない、歴史も何もかも関係しているのに、若い時には気づかなくて最近ようやく気づきはじめました。井上ひさしさんとか永井愛さんとかすごい作家で憧れますね。小さいことでも自分の言葉で考えて行動することができたらいいなあって思います。

Q 役者として、コンディションを整えるためにしていること、気をつけていることは?

身体をいつも動かせるようにしておかなければと思っています。今年52歳ですが、年を取れば取るほど体を動かすことは大事だと思っていて、今はヨガにはまっています。ヨガはいいですよ。痛いことをせず続けている間に体が柔らかくなってきました。ヨガの呼吸法は精神的にも落ち着き、腹筋背筋も付き、集中力が高まると思いますね。B作さんにも勧めているのですが、男性はあまりヨガをしませんね。

Q ひこね演劇鑑賞会へのメッセージ

 ひこねには3回も呼んでいただいて嬉しく思っています。今回は永井愛さんの作品で、硬質なテーマの喜劇ですが、気に入っていただけると思います。また、2017年、三谷幸喜さんの作品「田茂神家の一族」で楽しんでいただけると思います。

【ひこね演劇鑑賞会会報係からのインタビュー】

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