第37回例会
「赤い月」例会報告 今回は運サの幹事として二ヶ月前より活動させていただきました。映画でも見せていただき、なかにし礼さんのファンでもあり、大いに期待して見せて頂きました。自分の席は後方でしたが、花束のお役をさせていただき最前列中央で見せていただけたこと、今までにない幸せでした。平淑恵さんが、最後の場面で祖国日本を目前に大粒の涙を流して熱演される細かなところまで、手に取るように見せていただけ、あっという間の三時間でした。平さんと握手できたあの感激を一生大事にさせていただきたいと思います。これすべて演劇鑑賞会会員である幸せと感謝しております。 船腹にあたる波の音が高まると、暗溶のうちに浮かび上がる引揚船の船底の一室。このプロローグはじまり、エピローグで現代に生きる美咲と公平が万感の思いを込めて呼びかける「お母さん」のひと言までの三時間(休憩を含む)の大作。 舞台は「王道楽土」ともてはやされて、夢を見ながら「国民の存在しない国」満州に出かけた人々。その人たちに襲いかかった1945年8月9日のソヴィエト軍の侵攻。そして8月15日の敗戦は、すべての主客が転倒し、降りかかる難事の中を掻い潜り、命がけの逃避行が続く。関東軍と手を結んで成功した森田酒造も家族、従業員すべてが離散する。ようやく避難列車に乗り込んだ波子と二人の子供。激変する状況の中で、生命の保証も全くない不安な毎日。 かつて安泰と繁栄のなかで、関東軍参謀の地位にある大杉(かつて小樽の地にあって波子が心を寄せた軍人)との秘められた関係を持つ波子。そして逃避行を続ける中で子供を守ることに必死の波子に何かと力になってくれた氷室が、阿片に冒された身であることを知った波子が看病を通して結ばれていく。母親としての姿とひたむきな愛に生きる女としての波子が重なる。 場面転換が早いだけに、交わされる会話が少なく、始まりから暫くは戸惑うことが多かったが、進展するにつれて子供を守る力強い母親と、愛する若者のために女の生命を燃やす姿に、とても力強いものが伝わってくる。欲を言えば、氷室に思いを寄せるあまり嫉妬してエレナの在処を密告する女の心をもう少し表に出してほしかった。 全幕を通して流れる音楽(マーラー交響曲第5番)が、時には人間の呻きを、あるいはほっとする安堵を、そして生きる力を効果的に盛り上げていた。ほんの一時ではあったが第二幕の来々軒主人が緊張の間に人間の温かさを感じさせた。登場人物が多いために一人が何役もこなさなければならず、それだけに大変な苦労があったと思われる。 心に強く訴えるものがある例会であった。 ところでプロローグの前に波音が次第に高まってきているのに客席では私語が続いている。かつて別の例会でも暗溶のうちに音楽が流れてきても隣の人との話し声が続いていた。舞台に灯りが入り明るくなると、ようやく客席が静かになるのでは音楽は無意味であり、効果は伝わってこない。観る者すべてが心すべきことのひとつである。 幕が開いて主役が登場すると必ず拍手が起こる。歌舞伎や商業演劇ならばそれも大切な役者への励ましかもしれないが、ひこね演鑑で観る舞台では全く不必要で、舞台の心理的効果からすれば雰囲気を害うだけである。この「赤い月」ではプロローグから波子(平淑恵)は登場しているのであって、一幕一場(森田家)で登場の際の拍手は間が抜けているものであった。今回の例会担当サークルとして気がついた点を指摘しておきたい。 サークル八幡・津田公城 「赤い月」運営サークル27のうち、23サークルが運営参加しました。会議6回と、シール渡し3回、例会当日と、約2ヵ月半、お疲れ様でした!「おにぎり」「おいなり」「サラダ」お茶、楽屋に「野の花」、劇団の方にも喜んでいただけました。会員数729人と、前例会を13人もクリアしましたが、運営サークルとしては、5サークル、10人の入会に留まりました。次回は運営サークルがもっと楽しんで、元気にやっていけたら、と、願っています。
アンケート集計(回収103枚) 期待していた・・・86 期待していなかった・・・11 関心がなかった・・・3 考えさせられた・・・77 面白かった・・・13 楽しかった・・・13 難解・・・15 退屈・・・3
「赤い月」一口感想 *長時間のドラマで感動したが、アンコールの拍手がなかったのは?いつもは何回もあり演者も客も満足したのに。 *私の年代には、あまりわからないが、ちょっと、衝撃的だったが、親が子を思う気持ちは一緒であることを考えさせられました。 *大変厳しい内容であった。「生きる」今生きているけれど、かっこよくなんてことを考えてはいますが、あの戦時中を生きることは並大抵のことではないと思う。ただ願わくは、あの状況がもう起きませんように。 *あまりの感動に拍手を忘れた。フィナーレの後、もう一度お会いしたかった。 *音声がはっきりしないので、理解しにくいところが時折あった。会場が広いだけに特に音声については、工夫してほしい。毎回思っていることです。 *久しぶりに考えさせられた。平さんの力強い演技が良かった。 *導入部分で少々判りにくかった。あの長編をどのようにされるか大変な芝居。 *波子役の平さん上手でした。また子役(公平)さんも、子供とは思えません。 *演出が良い。音響効果が良かった。音楽も工夫されているなあと思いました。 *こんなに厳しい生活を強いられた人々のいたこと忘れてはならない。 *テレビでも見ましたが、また違った感じでとても見応えがあった。 *芝居もセットも、大変よく出来ていると思われるのに、な〜んだか、面白くなかった。期待が大きすぎたのか?内容が暗いものだったからか?な〜んだか、面白くなかった。後半面白くなった。 *極力戦争ものはやめてほしい。楽しく帰れない。 *戦争ものとか、暗いイメージのものは、面白くない。楽しくて、明るい、笑えるものがいい。ぜんぜん面白くない。 *映画や本を読んでいたので、内容はわかったが、知らない人が見ても少し判らなかったかもしれません。でも、戦争がおきないように・・・ *映画を観ていたので期待していました。舞台の音響効果が戦争の状況も見事に表現してわかりやすかった。良かったです。戦争は人間を変えてしまうことがよくわかりました。戦争の惨さ、虚しさ、全世界で考えてほしい。 *すばらしい舞台でした。 *平淑恵さんの女優根性には、感激しました。
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赤い月
作/なかにし礼 演出/鵜山 仁 出演/平 淑恵 他 (あらすじ) 数々のヒット曲の作詞でしられる、なかにし礼氏が'99年「長崎ぶらぶら節」で直木賞を受賞。受賞後第一弾となるベストセラー小説「赤い月」を作家自ら手がける脚本書き下ろしで舞台化する。すでに2004年には映画化、テレビドラマ化が決定している。 原作は、終戦前後の満州での混乱を背景に、生死の世界を必死に生き抜いた人間たちの姿を、作者自身の実際の体験を忠実に織り込み、実母をモデルにした主人公「波子」を通して描いた感動の物語です。 大きな夢を抱いて、波子は夫の専太郎とともに満州へ。波子に想いを寄せる関東軍の参謀、大杉の庇護の下、一家は造り酒屋として成功する。ところが、1945年8月、夫の留守中にソ連軍が満州に侵攻を開始、波子は二人の子供を抱え、決死の逃亡生活を余儀なくされる。 文学座を代表する女優、平淑恵の主演、鵜山仁の演出でおくる、あらたな『女の一生』と言うべき作品。 (劇団紹介) 1937年の創立。文学の香り高い作品を上演し続ける新劇界の老舗劇団。故杉村春子をはじめ豊かな役者陣には定評がある。 (コメント) 未上演。満州の広大な風景をバックに、国と個人のあり方を歴史のうねりの中で骨太に描く原作は読み応えあり。それをどんな切り口で舞台にのせるのか、楽しみなところ。 |
赤い月の公演によせて 次の例会は10月12日(水)、文学座戯曲『赤い月』公演です。原作者なかにし礼は、数々のヒット曲の作詞家としてみなさんご存知でしょう。『知りたくないの』に始まり『今日でお別れ』『時には娼婦のように』『北酒場』など約4000曲の作詞をしています。 小説を書き始めたのはここ10年程で、2000年『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞、2001年には『赤い月』を発表しベストセラーとなりました。この『赤い月』にこめる作者の思いは、文学座公演によせた次のメッセージに明らかに示されています。 「小説『赤い月』の構想は、昭和21年10月末、引き揚げ船を降りた8歳の私が、祖国日本の土を踏みしめた時に生まれはじめていたと言っても過言ではない。満州体験は、成長するにつれ私の精神の核となり、表現されることを求めて、日一日と私の内側から突き上げつづけていた。私が人生の後半を超えてから小説を書き始めた理由はそこにある。 私は『赤い月』を書きたいがため作家になったのだ。『赤い月』は映画、テレビドラマ、ラジオドラマと様々なジャンルで再創造されていくが、文学座で舞台化されるにあたってはなんとしても自分の手で劇曲化したいと思った。もう一つの『赤い月』を書き下ろしてみたい。青春の頃から私は文学座を愛してきた。劇曲『赤い月』を携えて、私が生まれた年に初公演をしたという文学座の長く輝かしい歴史に参加できることを心から嬉しく思っている。主演は平淑恵、演出は鵜山仁、皆様のご期待にこたえたいと思う」 小説『赤い月』は、終戦前後の満州での混乱を背景に、生死の境を必死に生き抜いた人間たちの姿を、作者自身の体験を忠実に織りこみ、実母をモデルにした主人公「波子」を通して描いた感動の物語です。 自伝的小説ではあるが、同時に綿密な史料考証に基づき、当時の極限状況をリアルに描き出しています。巻末の参考史料一覧には、約300の文書、新聞、図書が挙げられているのには驚かされました。 当時、満州には100万人を超える日本人が進出していました。そして民間人は、国家に3回見捨てられたといいます。まず軍隊に見捨てられます。日本へ帰るため南下する列車には軍人とその家族などしか乗ることができませんでした。外務省は、民間人は「現地に定着せよ」と過酷な指示を出します。ようやく引き揚げの方針が決まっても「国には金がないから、自分達で金を集めて帰って来い」と言う始末です。とても信じられないようなひどい状況の中で波子一家は満州で築き上げた巨万の富を投げ捨て、歯をくいしばって生き抜き、終戦から一年以上たってようやく日本に帰り着きました。もちろんこの作品の主人公は波子であり、テレビで高島礼子の演ずる波子のエネルギーはすさまじいものでした。しかし、私は中村獅童の演じた氷室啓介(実在の人物だそうです)の強烈な個性も強く印象に残りました。この公演で波子を演じる平淑恵は、杉村春子亡きあとの文学座の看板女優として評価が定まっていますが、氷室役の長谷川博巳をご存知の方は少ないでしょう。最近頭角を表し、抜群の存在感をみせる文学座期待の新人です。どんな氷室を見せてくれるか楽しみです。 ひこね演劇鑑賞会 代表幹事 八田 光雄
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