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第103回例会

2018年8月21日(火)

劇団1980公演 

  素劇 楢山節考

原作■深沢七郎
構成・演出■関矢幸雄

人が " 生まれ、生きて、死ぬ "ことの意味、命あるものの在り方を問いかける深沢七郎の原作を、" 素劇 "なればこその魅力で構築した舞台。
黒一色の空間に、黒い箱と白い紐。『あゝ東京行進曲』に続く " 素劇 " の舞台は、豊かな遊び心で次々と場面を生み出しながら、想像力の中に色鮮やかな楢山の景色を浮かび上がらせます。
1956年に発表され、文学界に衝撃をもたらした『楢山節考』は、現代の私たち日本人にとって、今改めて、人が生きる=営みの原点を見つめ直す舞台になるはずです。

出演■
柴田義之      上野裕子
藤川一歩      光木麻美
山本隆世     水井ちあき
翁長 諭       関根真帆
木之村達也    丹由美子
神原弘之 
小出康統 
大田怜治  
栗栖裕之
すだあきら








劇団1980「素劇 楢山節考」
おりん役 水井ちあきさんにインタビュー



●女優になったきっかけは?
 お芝居が好きだった母親の影響です。母は島かおりさんの大ファンで、娘も芸能界にという思いを持っていたようです。「パンパースのコマーシャルにでませんか?」と言うお話があったくらいですから、母が申し込んだのでしょう。お芝居は近所のお姉さんが、ライブにつれて行ってくれたりしていたのですが、本当にお芝居の道を考えたのは高校生の時で、大学か専門学校かで悩んでいたときに、日本映画学校を知りました。今の日本映画大学ですが、今村昌平(注:映画監督)さんの学校で、1980創設者である藤田傳さんが副校長をしておられました。そこで講師をされていた1980の役者さんや藤田傳副校長から、3年間芝居のやり方を教えていただきました。卒業後、藤田傳さんに入団させてくださいと頼んで21歳の時に劇団に入りました。入団テストはなく、学校にいた3年間の毎日が試験だったというわけです。学生時代の私を知っていらっしゃる方と今一緒にお芝居をしているというわけで、ちょっと特殊です。

●劇団1980の方は皆日本映画大学の出身ですか
 そういうわけではありませんが、でもほとんどが藤田傳さんを知っているメンバーです。

●素劇の工夫、見所を教えてください
 物理的なセットはほぼないということですね。黒い箱と白いひもを使って表現して想像力でやっていく。でも、人間がそこにいることは普通のお芝居と変わらない。お客さんからしてもどちらも想像しながら役を思ったり、自分の周りの誰かを思ったりして観ているわけで、その関係性は普通のお芝居とそんなに変わらない。ただ、想像力をものすごくかき立てるのは素劇ならではで、これしかないと思っています。こちらが意図していないことまでお客さんに想像してもらえる。交流会で話したりすると、山へ行く時、おりんが息子を押しているように見えたとか、本当は白髪でないんだけれど(髪の毛の)だんごの様子を見て自分の母親を思ったとか、仕草とか芝居とかでなく髪型のここを観て母を思ったとか言われると、それぞれの人がそれぞれで、本当に全部観ているのだなと思うんですね。お客様に助けられているというのはあります。

●ここを観せたいというのがある中でそれ以上にお客さんが観ているという事ですか?
 そう、不思議ですね。でも素劇ならではの感想ではと思います。ただ劇を観るだけでなく、それ以上に五感を全部使って想像している。耳も目も匂いも音も聞こえているのかなって。パントマイムでやっているのに、白米が観えたと言われたときはすごくうれしかったですね。

●素劇を演じる苦労はありますか
 箱を触る時にただの箱になってしまわないようにということですね。箱の扱い方によって見え方が違うということで、箱でも箱じゃない、おひつなんだとか、うすなんだとか。お茶碗とか実際には無いものを、大きさとか重さとかを感じられるよう細かいところに気をつけなくてはならない。実際に持ってみよと言われます。「こうやって渡したものをこう受け取ったら大きさの違う別物になってしまう」と言われ、手の広げ方等を何回も稽古をします。

●捨てられる老婆の役を若い方がされる苦労は?
 前作で私はすえという赤ちゃんの役をやっていて、ただ元気におばあちゃんに甘えるというような役でしたが、今度は年齢を重ねた人間の機微のようなもの、おばあさんの考えや思いも何もかもひっくるめておりんにならないといけない。理解ができてないから役には入れず台本を覚えるのもすごく大変で、演出の関矢さんが私のための演出をしてくださって、演出助手の方が「おまえのための演出なのだからやらなくてはならない」とおっしゃって、もう必死で、周りの人も助けてくださって。素劇だからこそ若い私におりんができると考えています。素劇の素とは素うどんとか素人の「素」、「素の人」は何もないところからどんどん変わっていける。背伸びしてわざとおばあちゃんになるのは置いておいて、一人の人間として別の方向でおりんをやろうと思いました。前作までの88歳の阿部壽美子さんはそこまで生きてきた重みでおりんをやれますが私にはそれができない。38歳のわたしは、今はそれしかできない。
3月東北から始まって必死にやってきて、今また違う課題が出てきているという感じですね。お芝居に正解も終わりもないので、やっているうちに隠れていた悪いところも見えてくるし、みんなとやっている中で慣れにならず油断せず。関矢先生から「ご油断めさるな」とか、「ピンチはチャンス」とかおっしゃっていただいて支えてもらって進化していく。私は背が低いので、前から老婆役をすることが多かったんです。『あゝ東京行進曲』でも老婆役をやっているんですが、そんなこともあって阿部さんが降板されるとき演出助手の方から関矢先生に「水井ちあきはどうか」と言ってくださって私が演ずることになりました。関矢先生も93歳で、毎日来ていただくことはできなくて、月に三回くらい見ていただいています。

●素劇の中で役者さんの動きを合わせるためにどんな工夫をされていますか?
 合わせようという気合いです。ひもとか箱とか目印があるのですが、あうんの呼吸ですね。稽古して手首や体の感覚を研ぎ澄ませて。客観的に見るため本番のビデオを見て確認します。誰がずれたとかが明らかになります。声楽の先生に来ていただいて民謡の歌い方というようなワークショップもやったりしています。

●鑑賞会に対して
 私よりもお芝居の好きな方がいっぱいいるなと思っています。観た後に話す、それが観ている人の表現だと思うので、演じる側と観る側が『出会う』のが鑑賞会のような気がします。

●鑑賞会へひと言
 来年東京で『素劇 あゝ東京行進曲』をやりますし、素劇を広げる運動を一緒にしてください。劇団としては素劇だけでなくいろいろやっていますのでまた呼んでください。そして、お芝居観をると楽しい、観てみないとわからないので劇場に来て観てほしいですね。

●大切にしていらっしゃることは?
 「伝えること」今の私のテーマです。思いを自分の言葉で伝える。思っていることを言葉にすると半減したり誤解になったり、関矢先生が「理解は誤解」とおっしゃいますが、理解しているつもりが誤解だったり、反対に理解していても誤解として伝わったり、思いを伝えるのは難しい。

●公演前のお忙しい時間にありがとうございました。


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